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The Amount
HDP ──
透析量の考え方
透析の「量」という考え方
透析について語られるとき、多くの場合は「週何回、1回何時間」という話になります。
しかし患者さんの体にとって意味を持つのは、回数でも時間でもなく、
その組み合わせが生み出す透析の総量です。
これを数値で表そうとしたのが、HDP(Hemodialysis Product/透析量)という指標です。慢性血液透析の道を開いた Belding H. Scribner(ベルディング・H・スクリブナー)らが2002年に提唱しました。計算式は、次のようになります。
HDP = 1回の透析時間 × (1週間の透析回数)2
提唱者らは、この値が70を超えることを、適正な透析のひとつの目安としました。根拠になったのは、週3回・1回8時間の長時間透析(HDP 72)を続けた患者さんに良好な長期生存が報告されたことです。ここでは、この72を目安の数値として話を進めます。
いまの「週3回4時間」は、目安の半分です
日本で多くの方が受けている週3回・1回4時間を、この式に当てはめてみます。
4時間 × 3回2 = 36
目安である72の、ちょうど半分です。日本透析医学会のガイドラインは、週3回の血液透析について1回4時間以上の透析時間を推奨しています。4時間はあくまで下限であり、標準とされている形が十分な量だということではありません。
1回を長くするより、回数を増やす
もう一度、式を見てください。2乗されているのは回数のほうです。1回の時間を延ばすよりも、回数を1回増やすほうが、HDPは大きく伸びます。
これは体のはたらき方とも合っています。腎臓は24時間はたらき続けていますが、透析は間欠的です。透析と透析の間隔が空くほど、その間に体には老廃物や水分が溜まります。回数を増やして間隔を詰めることは、健康な腎臓のはたらき方に近づけることを意味します。
透析パターンごとの HDP
| 透析パターン | 週の総時間 | HDP |
| 週3回 × 4時間いまの標準 | 12時間 | 4 × 3² = 36 |
| 週4回 × 4時間 | 16時間 | 4 × 4² = 64 |
| 週4回 × 4.5時間目安に到達 | 18時間 | 4.5 × 4² = 72 |
| 週5回 × 3時間 | 15時間 | 3 × 5² = 75 |
| 週5回 × 4時間 | 20時間 | 4 × 5² = 100 |
週3回を週4回にして、1回を30分だけ延ばす。それだけで36から72へ、二倍になります。回数を増やすというのは、透析漬けになることではありません。
日本のデータでも、HDPが高いほど死亡リスクは低い
これは計算上の話にとどまりません。日本透析医学会は、国内の透析患者のデータを使って、HDPと死亡リスクの関係を解析しています※。週3回4時間(HDP 36)を基準にすると、次のような結果でした。
HDP と死亡リスク(日本透析医学会による国内データの解析)
| HDP | 死亡リスク(調整ハザード比) |
| 27〜35 | 1.21(基準より高い) |
| 36(週3回 × 4時間) | 基準 |
| 37〜44 | 0.86 |
| 45〜71 | 0.70 |
※ 日本透析医学会 委員会報告「頻回・長時間透析の現状と展望」透析会誌 52(9):497〜531、2019。解析対象となった患者さんの67%が HDP 36(週3回・1回4時間)でした。なお HDP が72を超える群では有意な差は確認されていません。報告自身が、その群の患者数が少ないことを解析上の限界として挙げています。
週3回4時間(36)から、たとえば週4回4時間(64)へ。この範囲で、死亡リスクははっきりと下がっています。
回数を増やせない理由は、体の側にはありません
それなら増やせばいい、という話ですが、実際には簡単ではありません。決まった曜日の決まった時間に、週4回、5回と通う。働きながらこれを続けるのは、多くの方にとって現実的ではないからです。
セルフ透析が週4回以上を前提にしているのは、ここに理由があります。曜日も時間も自分で決めてアプリで予約するので、回数を増やしても、生活のほうを組み替えずに済みます。
この指標をどう受け止めるか
Scribner らがこの指標を提唱した背景には、フランス・タッサンの透析施設で、長時間・頻回の透析を続けた患者さんに良好な生存成績が観察された、という事実があります。彼らはその観察をもとに、週4〜7回・1回5〜8時間という透析を推奨しました。
ただし HDP は経験的な指標であり、学術的に確立した絶対基準ではありません。「この数値を満たせば必ずこうなる」という保証ではなく、透析量を考えるための一つのものさしです。実際にどの程度の回数と時間が適切かは、患者さんそれぞれの体の状態によって変わります。必ず医師にご相談ください。
それでも、この指標には意味があります。「週3回4時間」を当たり前として受け入れるのではなく、自分が今どれだけの透析を受けているのかを数値で見られるようになるからです。